植物油に含まれるリノール酸が食後の血糖上昇を緩やかにできる可能性を発見

発表日 365体育app5年7月31日(月)

発表者

山本 悠太 (和歌山県立医科大学医学部解剖学第一講座 講師)

本研究の特徴

  • 植物油に含まれるリノール酸を、グルコース液を投与する直前に投与すると、血糖値の上昇が緩やかになる現象をラット(ネズミの一種)で初めて見つけました。
  • この効果はインスリン分泌のできない1型糖尿病モデルラットでも認められたため、食後に高血糖になりやすい1型糖尿病を含む糖尿病の患者さんへの応用が期待できます。
  • アマニ油やエゴマ油などに多く含まれるαリノレン酸でも同様な効果が認められました。

本研究は、北海道大学大学院薬学研究院臨床薬剤学研究室との共同研究で行われました。

研究の概要

研究の背景

 図1ご飯やパンなどの炭水化物を食べると、腸で消化されて糖(注1)になると、吸収され血液中の糖濃度(血糖値)が上昇します(図1)。この血糖値の上昇に反応し膵臓からインスリン(注2)というホルモンが放出されることで血糖値は元に戻りますが、インスリンの効き目が悪い2型糖尿病の患者さんでは食前の血糖が高いことや血糖がなかなか元に戻らないことがあります。

食事に含まれる油は、小腸で消化され脂肪酸とグリセリンという栄養成分になり小腸で吸収されます。小腸には腸内の栄養状態を監視する様々なセンサーがあり、そのセンサーのうち脂肪酸の量を監視するセンサーとしてGPR40とGPR120(注3)という受容体が知られております。GPR40に反応する薬を、食事1時間前に投与すると、食後の血糖上昇時に放出されるインスリン量が増えることで、食後血糖が速やかに下がる効果がラットで報告されています。GPR120に反応する薬を、2型糖尿病マウスに一か月以上投与すると、インスリンの効き目が改善することも知られていますが、食直前にこれらセンサーに作用する薬を投与する効果については今まで検討されていませんでした。

研究の目的

本研究では、GPR40とGPR120の両方のセンサーに反応する脂肪酸のリノール酸(注4)をラットに投与し、直後にグルコース液(注5)を投与した時のリノール酸の血糖値への影響について検討しました。

研究の結果

オリーブオイルをグルコース液投与直前に投与した群では血糖値の上昇は30分でピークを迎えますが、リノール酸を投与した群では血糖値の上昇のピークが30分後ろ倒しされました(図2左)。この効果はリノール酸を含む油では見られませんでした(図2右)。

図2

このリノール酸の効果は、インスリンの出ない1型糖尿病ラットでも確認された(図3)ため、この効果はインスリンの働きによるものではないことがわかりました。

図3

図4糖は小腸にあるSGLT1(注6)というポンプにより吸収されることが知られているため、リノール酸がこのポンプの働きをブロックするかを、培養細胞を使って調べました。グルコース類似物をCACO-2細胞(注7)という培養細胞に取り込ませる実験を行ったところ、SGLT1の働きをブロックすることが知られているフロリジンではグルコース類似物の取り込みが減少しますが、リノール酸ではこの取り込みは減少しませんでした(図4)。このため、リノール酸の血糖上昇を緩やかにする効果はグルコースの取り込みをブロックする効果とは関係ありませんでした。

摂取した食事は胃に入ると、十二指腸へ少しずつ送られていきます。栄養成分は小腸でしか吸収できないため、胃の動きが緩やかになると食後の血糖値の上昇も緩やかになることが知られています。そこで、リノール酸が胃の動きを緩やかにしている可能性を考え、リノール酸を投与した直後に投与したグルコース液が胃にどの程度とどまっているかを確認しました。オリーブオイルの飲ませたコントロール群では胃に残っているグルコース液量はグルコース液投与後30分で25%程度であったのに対し、リノール酸を投与した群では60%以上のグルコース液が胃に残存していました(図5左)。リノール酸を投与することにより、胃の動きを緩やかにさせるホルモンとして知られているGLP-1(注8)の血中濃度が上昇していることから(図5右)、リノール酸を投与することによりGLP-1が血中に放出されることで胃の動きを緩やかにしている可能性を見つけました。

図5

リノール酸はGPR40とGPR120の両方のセンサーに反応するため、このリノール酸の食後血糖上昇を緩やかにする効果はどちらのセンサーに反応して起きている現象かを確認するため、GPR40に反応する薬またはGPR120に反応する薬をラットに投与し直後にグルコース液を投与したところ、GPR120に反応する薬を投与することで、血糖の上昇は緩やかになったが、GPR40に反応する薬では、この効果は認められませんでした(図6)。

また、健康食品の成分としても有名なαリノレン酸(注9)でもリノール酸と同様な効果を認めております(図7)。

本研究より、リノール酸やαリノレン酸の摂取が食後血糖上昇を抑える働きがあり、食後の急な血糖上昇を改善する可能性を示すことができました。また、GPR120に反応する薬の新たな使用法を提唱することができたため、本研究が1型糖尿病を含む糖尿病患者さんを対象とした新しい薬の開発の第一歩になりうることが考えられます。

※本研究で使用したリノール酸およびαリノレン酸は脂肪酸であり、食品や健康食品の摂取では同等な効果は認められない可能性があります(図2より)

図6、図7

発表雑誌など

発表雑誌:Frontiers in Pharmacology 14:1197743 (2023年7月31日発表済)
論文タイトル:Oral administration of linoleic acid immediately before glucose load ameliorates postprandial hyperglycemia
著者:Yuta Yamamoto, Katsuya Narumi, Naoko Yamagishi, Toshio Nishi, Takao Ito, Ken Iseki, Masaki Kobayashi, Yoshimitsu Kanai

問い合わせ先

和歌山県立医科大学医学部解剖学第一講座
講師 山本 悠太 (やまもと ゆうた)
Email: yuta-y@wakayama-med.ac.jp

用語解説

注1  糖
炭水化物は胃腸で消化されグルコースなどの糖に分解されます。血糖値として測定される糖はこの糖のうちグルコースを指しています

注2  インスリン
血糖値が上がったときに膵臓から血液中に放出されるホルモン。小腸から血液中に放出されるGLP-1というホルモンによりインスリンの放出量が増えることが知られています

注3  Gタンパク質共役型受容体(GPR)40およびGPR120
長鎖脂肪酸受容体として知られており、消化管では長鎖脂肪酸を感知しGLP-1などのホルモン分泌を行うことが知られています

注4  リノール酸
植物油に含まれる脂肪酸の成分の一つ

注5  グルコース液
血糖値を上げる試験で用いられる液体。ご飯などの炭水化物が完全に消化されたときにできる糖の一つ

注6  SGLT1
ナトリウム依存性グルコース輸送体のことで、小腸の粘膜からの糖吸収を行うポンプの役割を担っています

注7  CACO-2細胞
ヒト結腸癌由来細胞で、腸管機能を再現した細胞モデルとして用いられています

注8  GLP-1
グルカゴン様ペプチド-1のことで、消化管ホルモンとしてインスリン分泌を促したり、胃の動きを抑えたりする作用が知られています

注9  αリノレン酸(アルファリノレン酸)
アマニ油やエゴマ油などの植物油に含まれる脂肪酸の成分の一つ。健康食品等にも含まれていることが多い脂肪酸の一つ

 

インタビュー記事
~食後の眠気や倦怠感にも効果的?リノール酸が食後の血糖値上昇を緩やかにする可能性~このリンクは別ウィンドウで開きます
がWelluluにて掲載されました
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